2020年、DTM制作を行うための機材もますます多くリリースされました。ここではオーディオインターフェースからMIDIコントローラー、プラグインに至るまで、人気のある製品をピックアップ。それぞれの製品の特徴に迫ってみましょう。
2イン/5アウトのオーディオインターフェース。Amplitubeの開発元だけあって”ギタリストのため”というコンセプトで設計された製品です。パッシブPU、アクティブPUを選択するスイッチがあり、入力インピーダンスを連続的に可変し、音質を変えていくZ-TONEと呼ばれる回路を搭載するなど、まさにギタリストにとって嬉しい仕様が多く見られます。マスターアウトとヘッドフォンアウトは別のつまみによって調整可能で、外部の機材を使ってのリアンプを意図したAmp Out出力端子も装備。値段もさほど高価ではなく、ギター、ベースプレイヤーにとっては第一候補となりうるオーディオインターフェースでしょう。
ハイエンド・オーディオインターフェースの世界に颯爽と登場したAntelope Audio社のZen Tour。そのZen TourにアップグレードされたADDA変換、変換の際に解像感を増し、レンジを広げるAcoustically Focused Clocking技術、そしてタッチスクリーン機能を追加したものがこのSynergy Coreです。Antelope社のインターフェースはそのプロフェッショナルクラスの音質もさることながら、内蔵されたプロセッサーを使っての専用エフェクトの使用が魅力。エフェクトの質は同じコンセプトのUAD製品と張り合えるほどのクオリティを持ち、この製品では購入時点で36ものエフェクトが付属します。値段は非常に高価ですが、このエフェクト群込みの値段と見ると決して高くないとも言えます。また、Thunderbolt 3に加えUSB2.0での接続にも対応するところは、あまり新しくないマシンを使っている制作者に取っては地味ながら嬉しいポイントになるでしょう。
Antelope Audio Zen Tour Synergy Core
内部のプロセッサーに専用エフェクトを読み込んで使える、というコンセプトのオーディオインターフェースを始めに生み出したUniversal Audio社。Apollo Soloはプロセッサーを1つだけ備える同社のエントリーモデルで、2イン/4アウトの小型インターフェースとなっています。エントリーモデルとは言え、ADDA変換、ソフトウェアをハードウェアとして使えるUnisonテクノロジーに対応したプリアンプなど、上位機種と遜色のないクオリティを備えます。UADの超高品質エフェクトはRealtime Analog Classicsというバンドルが付属し、マイクプリ、チャンネルストリップ、リミッターなど計14種が購入時点で使用可能。Soloの名の通りプロセッサーが一つしかなく、同時に使えるエフェクトの数が頭打ちになりやすいところが上位機種との差で、多くのエフェクトを使用したい場合は上位のTwinやQuadを検討することになります。
APOGEE社のハイエンド・インターフェース。レコーディングスタジオなどに常備されていることの多い、ラックマウントタイプのApogee Symphony I/O Mk2とほぼ同等のスペックをデスクトップサイズに凝縮した製品で、そのクオリティの高さは推して知ることができます。小さな筐体ながら10イン/14アウトの同時レコーディングが可能で、中でもFETインストゥルメント入力に挿すことで真空管ギターアンプのキャラクターを付与できます。最大75dbのゲインを稼ぐマイクプリを搭載し、二種類用意されたヴィンテージプリアンプのエミュレーションを掛けることで、往年のヴィンテージプリアンプでのレコーディングをシミュレート可能。内蔵DSPにより専用Apogee FXプラグインを運用でき、Symphony ECS channel stripが付属します。上面にはタッチスクリーンを搭載し、多くの機能を持ちながら操作性もしっかりと担保されています。
90年代に一世を風靡したKORG wavestationの発想を、現代においてブラッシュアップし開発されたのがこのwavestate。wavestationはステップごとに全く異なるサンプルを連続再生するという、wave sequencingと名付けられた個性的なシーケンサーを持ち、本機種ではそれをヴァージョンアップ。異なるサンプルとそれに伴うピッチやタイミングを個別に設定できるようになり、ランダム性を感じる複雑なシーケンスが組めるようになりました。また、wavestateはプログラム、アルペジエーターやエフェクトなどを含む”レイヤー”を計4つまで重ねて音を出せるという構造になっており、多彩なフィルターから自由なチョイスでサウンドをデザインできます。ピッチベンド、モジュレーションホイールのほか、独自のベクタージョイスティックというコントロールが搭載され、様々な要素をリアルタイムにコントロール可能。wave sequencing機能を使わずとも、優秀なデジタルシンセとして機能し、制作からライブまで様々な用途で活躍します。
1981年に登場したリズムマシンの伝説的銘機Roland TR-606を忠実に再現したモデル。オリジナルTR-606の再現にとどまらず、現代のニーズに合った使いやすいシーケンサーに新たに改良され、サウンド構築のためのチューニング、ディケイ、パンなどのパラメータ、そしてコンプレッサー、ディレイ、オーバードライブなどのエフェクターが新たに追加されたアップグレード版とも言える内容になっています。また、外部のモジュラー・シンセと接続できるトリガーアウトも新たに装備し、拡張性も確保。往年のサウンドをより現代風に使えるように、様々な点で工夫が凝らされています。
それぞれオリジナルRoland「TR-606」「TR-808」「TB-303」をシミュレートした製品。カラーバリエーションが多くリリースされているRD-6、TD-3はインターフェースの雰囲気も似ており、兄弟機として発売されています。RD-6はオリジナル「TR-606」にはないハンドクラップが追加されていたり、TD-3に含まれるディストーションエフェクトが追加されていたり、より現代向きにアレンジされている印象。ドラムの部品毎にパラアウトできるところなどこの機種ならではの機能もあり、使い勝手は幅広いでしょう。
RD-8はこれら二機種の上位にも当たるモデルで、「TR-808」がモチーフとなっています。アナログならではの太いドラムサウンドが得られ、シーケンサーはライブでのパフォーマンスで使えることを前提に設計されています。ウェーブデザイナーはこの機種ならではの独自機能であり、非常に効果的なサウンドの構築が可能。いずれもベリンガーらしく低価格に抑えられており、だれでも手に入れることができるのも嬉しいところです。
BEHRINGER RD-6
BEHRINGER RD-8
BEHRINGER TD-3
オリジナルMinimoogを意識して設計されたコンパクトなアナログシンセサイザー。4つのオシレーターを搭載することで太いサウンドを作り出すことができ、モノフォニックのほか、ユニゾン、ポリフォニックモードに対応。リードトーンのほか分厚いハーモニーを使ったパッドサウンドなども生成可能です。オリジナルmoogに使われるDタイプ回路を再現し、存在感のある音色の構築を得意とし、32ステップのシーケンサー、アルペジエーターも搭載。ユニゾンを使っての豊かなサウンドから複雑なシーケンスパターンまで思いのままに操ることができます。
小型の鍵盤を採用した37鍵のMIDIコントローラー。モジュレーション・ホイール、ピッチベンド・ホイールやプログラムの選択など必要にして最小限のコントロールを装備しながら、幅50cmあまり、約800gの小型軽量を実現。MIDIコントローラーとしては珍しいヘッドフォン端子の装備は、端子の付かないiOSデバイスなどで特に有用です。サイズや機能を考慮するとモバイルデバイスでの使用に重点が置かれているように感じられますが、Mac/PCで使用の際には付属のSampleTank 4 SEを利用可能。演奏の他、制作にも頼りにすることができます。
IK Multimedia iRig Keys 2 Mini
4トラックのステップ・シーケンサーが付随するMIDIコントローラー。トラック1がドラムシーケンサー、2~4にはアルペジエーターが実装されています。4台まで別々のハードウェアやコンピューターに接続でき、多くの機材を統括するホストコントローラーとして使用可能。背面にはアナログシンセ用に2系統のCVアウト、1系統のGateアウトがそれぞれ4セット分配置され、8系統のドラム用Gateアウト、クロックイン/アウト、さらにデジタル信号でのやり取りのためのUSB Type-B端子も装備し、アナログとデジタルとの混合も容易に行えます。鍵盤はアフタータッチ、ベロシティに対応し、制作のための入力にも事欠きません。
Ableton Live用コントローラーとして人気の高いLaunch Padシリーズのフラッグシップモデル。新たに4トラック、8ポリフォニック、32ステップのシーケンサーを搭載し、スタンドアローンで刺激的なサウンドを創出可能となりました。ソフトウェア側の操作はこれ一台で全て完結させることができ、キーに合わせたスケールモードや複雑なコードを作り出すコードモードも優れており、リアルタイムでの有機的な打ち込みによるライブ的プレイから、通常の作曲のツールに至るまで幅広く使う事ができるでしょう。Ableton Live以外にも通常のDAWソフト用のMIDIコントローラーとしても優れた機能を発揮し、特にLogic Proでは10.6以降で公式対応するようになりました。
PresonusのStudio Oneに公式対応するMIDIコントローラー。32のパッドを配置し、ステップシーケンサーのような外見ですが、上部のダイヤルやパネルでStudio Oneの様々な項目をコントロールでき、一台で多くのパラメーターを直感的に操ることができます。特にMIDIトラックの編集機能は非常に良くできており、トランスポーズ、複製、タイミングをランダムにずらすヒューマナイズなど、マウスに触れることなく操作が可能です。下部のパッドはStudio Oneのパターンエディターと連動してのステップシーケンサーとして使用できるほか、鍵盤同様の並びとするKeyモード、あるいはコード演奏に特化したモードやアルペジエイター機能も装備されています。Studio OneのみならずAbleton Liveにもネイティブ対応しており、クリップ、シーンといったLive特有のインターフェースに追従、様々な操作がこれ一台で可能となります。
シンセ3台、ドラムマシン1台の計4台を一度に制御できるシーケンサー。ハードウェアのシンセのみならずUSB接続により、DAW上のプラグインにも対応します。3つあるメロディトラックは16のシーケンスパターンを持ち、最大64ステップまで入力可能で、それぞれ独立したMOD、PITCH、GATE出力を搭載。ドラムトラックでは16のサブトラックを中に含み、それぞれ64ステップまで記録できます。64もの豊富なパッドは鍵盤のようなレイアウトから、コードの響きを変えずに直感的に探れるアイソモーフィングモード、スケール内の音が3オクターブ並ぶオクターブモードの3種を選ぶことができ、ライブでの演奏にも使えます。シーケンサーのみならず、DAWの入力用コントローラーとしても使えるほど多機能で、様々な用途で使用できます。
昨今増加の一途を辿るUSBコンデンサーマイクですが、このBIGFOOTはベリンガー社らしくコストパフォーマンスの高いモデルです。ステレオモード、カーディオイド、全指向性、双指向性の4つを選ぶことができ、ヘッドフォン出力端子が付随することで、PCからのインターフェースとしても使用可能。頑丈でありながらコンパクトに収まり、スタンドが付属していることから、購入後すぐに使用可能。配信などで重宝するミュートスイッチも装備し、死角のないUSBマイクとなりました。
4つのカプセルを中に内包しつつ、驚きの低価格を実現しているAKGのUSBマイク。集音には4つカプセルを活かした、独特のモードを選ぶことができ、それぞれFront/Front&Back/Tight Stereo/Wide Stereoとなっています。サウンドはAKGらしくクセの無いもので、幅広い角度からサウンドの集音ができ、フロントパネルにミュートボタンが付いている仕様も含め、配信に向いていると言えます。USBマイクの中では公式にiOS、Android対応を明記している数少ない製品の一つでもあり、モバイルデバイスでの使用を考える場合、有力な選択肢となるでしょう。
大ヒットドラム音弦EZ Drummerの姉妹品に当たるベース用音源。モダンとヴィンテージの2台のベースサウンドが用意され、表現力に溢れるベーストラックを構築可能。この製品の最大の特徴はその打ち込み易さにあり、スライドやレガートなど豊かなアーティキュレーションを含んだトラックを簡単に作れる専用エディターを装備し、さらにジャンルやリズムごとに豊富なプリセットを準備。ギターやドラムなどのトラックに合わせてベーストラックを自動生成する機能、オーディオトラックを読み込んでMIDIに変換するAudio Trackerなど、打ち込みを可能な限り簡便にかつリアルに仕上げる機能が豊富に準備され、1本目のベース音源にして末永く使うことができる優秀な音源です。
シネマティック音源の雄として人気の高いHeavyocityのパーカッション音源。前作”DAMAGE”から10年の歳月の後に登場し、まさに満を持してといった感があります。シネマティック音源らしい巨大なグランカサス、太鼓、バスドラムなどを筆頭に、スネア、タムから民族楽器まで、1600もの種類のパーカッションのサンプルが40000以上収録され、その容量は60GBに登ります。完成度の高いループを簡単に作れるループデザイナー、16ボイスからドラムキットを作れるキットデザイナー、そしてマイクポジションを含めた幅広いサウンドのサンプルを任意に設定できるアンサンブル・デザイナーの3種の機能を有し、いずれも豊富なプリセットが準備されています。非常に簡単に迫力のあるサウンドが得られるだけでなく、一つずつの音色を深く追求することも可能な、優れたパーカッション音源です。
DTMでの音楽制作を行う際に、文字通り定番となっているKOMPLETEバンドル。2020年にはついにバージョン13が発売されました。14のシンセ、30のソフトウェアインストゥルメント、5つのパーカッション音源、16のエフェクトに加え、サンプルやループに特化したエクスパンションが24セット含まれています。なかには業界定番サンプラーKONTAKTや、EDMに欠かせないMASSIVE Xシンセ、ギターアンプシミュレーションを行うGuitar Rig 6なども含まれ、一本持っておくことで大いに制作の幅が広がることは間違いありません。通常版の他、オーケストラ、シネマティック音源の充実するUltimate版が用意されています。
Native Instruments KOMPLETE 13
RolandのテープエコーRE-201 Space Echoを忠実に再現したディレイプラグイン。アナログテープの持つ不確実な挙動を再現するため、2年の月日が研究に捧げられ、プリアンプ、プレイバック・ヘッドなどがサウンドに及ぼす影響が測定されました。オリジナルの再現にとどまることなく、ステレオサウンドの調整、入力段階におけるフィルター、一定以上の音量でディレイを掛からなくさせるダッキング機能など、プラグインならではの機能を豊富に用意。テープエコーディレイの定番として長く使っていける製品でしょう。
IK multimedia T-RackS Space Delay
Exponential Audio社が作り上げたリバーブをiZotopeが継承し、その技術で開発した新感覚のリバーブ。核となるBlend Padでは3種類のリバーブを有機的に合成して、素早く最適なリバーブを作り出します。あらかじめ装備されたEQセクションでは、残響を適切に保ちつつ滑らかなEQ処理が可能で、Advanced Panelにおいては非常に深い設定にまで作り込むことができます。他のiZotope製品と同じく、自動で最適なリバーブを作り上げてくれるAssistant機能を持ち、制作の初心者から、こだわりたい熟練者まで幅広く使える優れたリバーブです。
2020年、多くの機材がリリースされましたが、ハードウェアの充実が特に目立ちます。既存のソフトウェアとハードウェアとの連携については年々質も向上しており、今後もその流れは継続していきそうです。今後の展開に注目したいですね。
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