2021年もDTM、DAWソフトまわりの新製品発表は留まるところを知りませんでした。オーディオインターフェースには配信向けに特化したスマートフォン対応のものがちらほらと現れ始め、シンセはデジタル全盛の反動からかアナログ発音方式のものがふたたび増えてきつつあります。魅力にあふれた新しい機材をおさらいしていきましょう。
Zen Go Synergy Core
Antelope社の高級オーディオインターフェイス。Zen GoとZen Qはそれぞれグレードの違いとなっており、Zen GoはUSB接続で8 in/8 out、上位モデルのZen QはThunderbolt3接続で14 in/10 outとなっています。いずれも127dbの大きなヘッドルームを持つADコンバーターや業務用と同クオリティのディスクリート回路プリアンプ、64bitのAFC(Acoustically Focused Preamp)テクノロジーなど、大まかなスペックについては共通しています。Antelope Audioの最大の利点とも言える搭載エフェクトは始めから同梱されており、プリアンプ、EQ、コンプやリバーブなどに加えて22のギターアンプシミュレーターを含めた計37種類。Zen GoにはDSP、FPGAがそれぞれ一基ずつ、Zen QにはDSPが二基、FPGAが一基搭載され、ホストコンピューターの負荷を一切掛けずに使用できます。エフェクトは後々に公式サイトから購入して増やすこともでき、いずれも非常に高いクオリティを誇ります。
Antelope Audio Zen Go Synergy Core
Volt 1
UADプラグインを使うApolloシリーズなどでハイエンド機器のイメージが強いUniversal Audioから、満を持して登場したエントリーモデルのオーディオインターフェース。シリーズは計5機種が発売され、その内訳は1 in/2 outのVolt 1、2 in/2 outのVolt 2、そしてその上位モデルとなる、伝説的銘機”1176”タイプのコンプレッサーを本体に備えたVolt 176、276、476の三機種です。全ての機種に610チューブプリアンプをエミュレートしたプリアンプ回路を搭載し、UAのハイクオリティな録音環境をこの低価格で整えられるとあればその魅力は計り知れません。まさに次世代の中級オーディオインターフェースの定番となりうるであろうシリーズです。
Universal Audio Volt 1
Universal Audio Volt 2
Universal Audio Volt 176
Universal Audio Volt 276
Universal Audio Volt 476
iD14mkII
2 in/4 outのUSB接続オーディオインターフェース。プロスタジオ用コンソールASP8024のマイクプリと同様のディスクリート回路プリアンプを二基搭載し、楽器用入力としてJFETを使用したプリアンプをも搭載。120dbの広いレンジを誇るADコンバーターを備え、優れた音質でのレコーディングをサポートしています。物理ホイールにDAWのパラメータをアサインして操作という、デスクトップに置くタイプならではの使える機能も備えており、使い勝手にも優れます。中級機クラスの価格帯では極めて優秀な製品で、エントリーモデルからのステップアップには良い選択肢となるでしょう。
Audient iD14mkII
Audient iD4mkII
最大7系統の信号をミックスできるモバイル端末用オーディオインターフェース。iPhoneやAndroid端末での録画や配信を意図して設計が行われており、接続にはLightningやUSB Type-Cはもちろん、通常のステレオミニプラグにも対応し、多彩なモバイル端末でのミキシングを可能にします。一人での弾き語りやデュオ、バンドでの演奏、あるいはマイクを複数設置しての対談など、使用できるシチュエーションは多岐に渡り、入力も通常のギターやベース、XLR接続のマイクやステレオのライン入力など、あらゆる楽器機材に対応。215gの小さな本体で、カバンに忍ばせてどこにでも持っていくことができます。
iRig Stream Pro
配信に特化したモバイル端末用オーディオインターフェース。前モデルのiRig Streamの機能はそのままに、よりブラッシュアップされて登場した二機種で、3系統の入力に対応するSoloと、最大4系統に対応するProのラインナップです。いずれも乾電池で動作し、Soloは通常のステレオミニプラグ、ProはLightningやUSBでの接続に対応し、Proの方はファンタム電源を使用するコンデンサーマイクも使う事ができます。端末側からの再生音をこちらに返しつつ入力音と混ぜて送り出すループバック機能を備えており、バックトラックとの演奏も簡単に配信可能。SoloとProは価格差がかなりあるため、迷った場合はどちらが必要かよく吟味すると良いでしょう。
IK multimedia iRig Stream Pro
IK multimedia iRig Stream Solo
JX-08
90年代に一世を風靡したシンセサイザーJD-800と85年に登場したJX-8Pをそれぞれ小型の筐体に落とし込んで製作された新モデル。JD-08はオリジナル機同様、膨大な数のコントロールとスライダーを上面に配し、108の波形を搭載することで多彩なサウンドを表現。当時を彷彿させる透明感がありハイファイ、そして太めのサウンドが見事に再現されています。JX-08は6音ポリフォニックのアナログシンセで、オリジナルのデザインを踏襲しながらも111種の新規プリセット音色を追加、17種の新エフェクトを搭載し、現在のシーンでも使いやすいようにアレンジされています。いずれのモデルもUSB Type-CによるPCとの接続などに対応し、外部音源、オーディオインターフェースとしての使用も可能です。
IK Multimediaのハードウェア製品となるシンセ。3基のオシレータを装備したアナログ音源仕様で、基本的にモノフォニックシンセでありながら、3つのオシレータを全て使って3音同時に発音することもできるパラフォニック形式となっています。操作感覚はデジタルでありながら発音に関しては完全にアナログ仕様なため、非常に太い音が出るのが特徴で、フィルターの効きも抜群。64ステップのシーケンサ、256種のプリセットを搭載。フィルターは2つを装備しそれぞれに様々な種類を持つため、総数は24にも及び、多様な音色を得ることができます。他にも波形をモーフィングする独特のオシレータ調整、パッチングに近いモジュール間の配線を内部で行えるMatrix機能など、この機種独自の機能が盛りだくさん。今どきのアナログシンセとして多くの強みを持つモデルです。タッチ鍵盤付きで小さいサイズのSynth PRO Desktopもラインナップ。
伝説的なシンセProphet-5の遺伝子を受け継ぐ小型アナログシンセサイザー。5ボイスの各ボイスに2基のアナログオシレーター、そしてProphet-5直系の4ポール・アナログフィルターを搭載。そのサウンドはアナログらしさを地で行く太く暖かいもので、VCO波形はサイン波からパルス波までを連続可変可能、2基のVCOはハードシンク、FMができるようになっており鋭いサウンドや金属的なサウンドも作り出せます。ヴィンテージサウンドを擬似的に再現するVintageノブも装備、Low Split機能により44鍵を分割できます。また、発音機構以外の部分ではうまくデジタルを取り入れており、2系統のエフェクト、64ステップのシーケンサーを装備し、ユーザーメモリーも128種類記録可能など、現代的な使用法にも耐えるように作られています。63cmの横幅に7.7kgの重量は無理のない運搬を可能としており、様々な場所で活躍できるでしょう。
人気のBlue Microphone Yetiシリーズから登場したUSBマイクの新機種。マイクゲイン、ヘッドホン出力、ミュートなどを一つのスイッチで切り替えることができ、卓上でほぼマイク以外は触らずに作業が可能。指向性も単一指向性、双指向性、無指向性とステレオモードの4種を切り替えることができ、およそ現在のUSBマイクに欲しい機能はほぼ全て入っていると言って良いでしょう。音質的にも十分なものがあり、ナレーションなど会話以外に音楽演奏にも十分に耐えられるクオリティを持っています。
ドイツのTONE2社によるウェーブテーブル・シンセ音源。明るく太い音色を特徴としており、攻撃性はそこまで高くないものの、汎用的に使える高品位な音色にまとめられたモデルです。ウェーブテーブルシンセではおなじみのWAVファイル取り込みも可能な上、波形を自分で手書きすることも可能。波形をシームレスにブレンドするモーフィング機能を備え、波形にユニゾン効果を与えるHyperSawオシレータが付随することで、文字通り3次元的なサウンドの構築ができます。膨大なエフェクトや多様なフィルターを備え一見難しく見える外観ですが、実際に触ると一画面によるわかりやすいGUIにまとめられており、1600ものプリセットが備えられていることもあり、シンセ初心者にもおすすめできる音源となっています。
米国Impact Soundworks社が日本のクリプトン・フューチャーメディアの助けを借りて作り上げた、純日本産のストリングス音源。日本で作られた多くのゲームやアニメなどの作品においてそのサウンドが聴ける”室屋光一郎ストリングス”のサウンドを、東京のサウンド・シティ・スタジオにおいて綿密にサンプリング。レコーディング・エンジニアには相澤光紀氏を起用し、それぞれのセクション、フルアンサンブルの音源が制作され、4つのマイクポジションと、相澤氏のサウンドをフィーチュアした計5ポジションによるミックスが用意されています。ヨーロッパやアメリカでのサンプリングがほとんどであるストリングス音源がいずれも映画的な壮大さを感じさせるのに対し、当音源はその密度の高い”部屋感”の強さが特徴。ゲーム音楽的なサウンドを目指すクリエイターにとって心強いものとなるでしょう。
IMPACT SOUNDWORKS Tokyo Scoring Strings
UJAM社の創業に関わった大作曲家ハンス・ジマー氏が、自らのRemote Control Studioで収録したドラムス、パーカッション音源。53種のスタイル、1219のフレーズ、265のヒットが内包され、UJAMならではの分かりやすいUIにより、簡便にパーカッションサウンドが構築できます。サウンドはジマー氏の音楽で聴けるような、壮大なパーカッション、そしてシンセ的な要素が絡み合った独創的なものを含んでおり、シネマティックサウンドからEDMのようなサウンドまで多彩なものに対応できます。
90年代初頭、ニルヴァーナに端を発し、シアトルに出現した”グランジ・オルタナティブ”と呼ばれるサウンドをフィーチュアしたドラム音源。BRUTEの名に現れる通り荒々しく激しいサウンドを創出します。ドラムキットはファットな低いチューニングのものやパンチの効いたものなど計5種、ドラムキットのミックスには6種がプリセットされており、ジャンルやスタイルによって使い分けられます。マイクには存在感のあるギターに負けないように3種類の異なるものが使用されてサンプリングされました。31種の演奏スタイル、713のドラムビートパターンを搭載し、UJAMらしく1画面で完結する分かりやすいUIによって、簡単に強烈なドラムのトラックを構築することができます。
クラシカルなリズムマシンの要素から現代的なシンセシスを余すところなく融合したドラム・シンセサイザー。3種のオシレーターにResynth、Samplerをそれぞれレイヤーすることで8種類が選べるサウンドエンジンから、多彩なエフェクトやリバーブを内蔵。一見複雑なUIでとっつきにくい製品ですが、真の強みはその独特のシーケンサーにあります。バスドラムやスネアなど、各トラック毎に別々の長さを指定したり一定の拍数で逆再生させるなど、フレキシブルにパターンを変化させていくことができ、常に変化し続ける一定感の希薄なパターンを容易に組むことが可能。その他ランダム生成機能や自動でのフィルイン生成などの機能を持っており、オリジナルのユニークなパターンを作りたい人にはこの上ない武器となる音源でしょう。
ギターアンプシミュレーターの代表的存在Amplitubeがついにバージョン5となって登場。新たにPRSのアンプを追加し、スタジオ用ラックエフェクトとして同社のMixBoxにも収録された多数のエフェクトを網羅。中でもキャビネットエミュレーションにはスピーカー毎に600を超えるIRを用いて音像を再現するVIR(Volumetric Impulse Response)という技術が生み出され、これによる音質の向上は本バージョンの目玉となり得るものでしょう。ルーパーや複数トラックのレコーディングなど、アンプ部分以外の機能も依然として強力で、今後も数多いアンプシミュレーターをリードする存在であり続けるであろうことを思わせます。
Wavesのボーカル用エフェクトを15種類同梱した、ボーカル専用バンドル。DoublerやSuper Tapなど往年のプラグインを含みつつも、シンセ音とボーカルを合成して新しいサウンドを生み出すOVox Vocal Resynthesisなどの新機軸プラグインも同梱しており、ボーカルを編集するための様々なプラグインが混在しています。楽器や他のトラックにも使えるものがある中、ピッチ補正用のTuneやディエッシングを施すSibilance、ブレス音をコントロールするDeBreathなどはまさにボーカル専用のもの。リバーブが入っておらず、あくまでトラックのトリートメントに特化した位置づけのバンドルと言って良さそうです。
数多いディレイプラグインの中でも人気の高いテープエコータイプ。この製品はエフェクトプラグインの王者FabFilterによるヴィンテージテープディレイで、掘り下げると非常に深いところまで編集ができる万能ディレイとなっています。16まで個別のフィードバックを作成でき、フィードバックに対してのモジュレーションの設定やエンベロープを使ってのシンセ的なサウンドの加工など、ディレイの枠を超えたサウンドデザインまでを行える一方、ただ掛けるだけでも通常のテープディレイとしてその高音質ゆえに優秀な働きをしてくれます。高機能ディレイでは第一の候補に挙がる存在でしょう。
FabFilterが送り出すヴィンテージフィルタープラグイン。バージョンが3になり、より見やすいUIへと進化。4つのアナログサウンドフィルターを搭載しており、それぞれに多くのシェイプのフィルターが用意されています。サウンドはアナログらしさを前面に出した親しみやすいもので、4つのフィルターは極めて柔軟なルーティングが可能。また、ドラッグドロップでどこにでも掛けられるモジュレーションはサウンドメイクのための大きな武器となるでしょう。
AIを搭載した高機能EQプラグイン。iZotopeなどのプラグインと同じくAIによるEQの自動調整に対応し、プリセットで任意の楽器を選ぶことで、最適なEQ補正が自動で行われます。特に不快なピーク成分を取り除いたり、フラットな印象の音像を作るためにこの機能は非常に重宝し、制作上の時短にもつながるでしょう。他にも複数のトラックをレイヤーにまとめ目立たせたいグループごとに自動でバランスを整えるグルーピング機能などを搭載。手動でのイコライジングも最大6トラックの波形を同時に見ながら編集できるなど、便利なだけでなく非常に使いやすいプラグインに仕上がっています。
様々なカテゴリのものを見ていきましたが、プラグインなどのソフトウェア以上にハードウェアの充実が目立ちます。特にオーディオインターフェースはその幅を広げており、今後の展開が楽しみですね。
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